相続放棄と金銭請求手続き

2月に入り,暖かい日と寒い日が入り混じるようになりました。

 

急に寒くなったり,雪が降るような日もありますので,体調管理には気を付けたいところです。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所で相続案件を中心に取り扱っている,鳥光でございます。

 

去年から相続放棄の取扱件数が非常に増えております。

 

相続放棄は,手続きそのものは単純ですが,付随する問題はたくさんあり,それに対する対処は簡単ではありません。

 

その中でも,特に相続人を悩ませるのが,死亡保険金や公的機関からの給付金・還付金等の類です。

 

なぜなら,相続放棄という制度は,法定単純承認に該当する行為をすると認められないというルールになっているためです。

 

この法定単純承認に該当する行為の中には,被相続人の債権の取り立てが含まれるとされています。

 

つまり,請求をして受け取った金銭の中に,被相続人の債権に基づくものがあると,相続放棄が認められなくなる可能性が出てきてしまうのです。

 

本当に保守的に考えるのであれば,すべて一切受け取らないという選択を取ることになります。

 

しかし,死亡保険金などは,100万円を超えるものもあり,切り捨てるには惜しいものでもあります。

 

そこで,ご相談をいただくことが多い,死亡保険金・死亡退職金,葬祭費の給付金,未支給年金について,一般的な考え方を案内いたします。

 

1 死亡保険金・死亡退職金

 

契約者・被保険者が被相続人,受取人が相続人となっているものは,受け取ることができます。
言い換えますと,相続人固有の権利となっている場合,相続財産ではないので,受け取っても法定単純承認事由には該当しません。

 

2 葬祭費の給付金

被相続人の葬儀費について,喪主や相続人に対して市区町村より補助金が給付されることがあります。
これについては,条例でもって葬儀を主宰する者に支給するという条文が通常ありますので,これに該当する給付金であれば受け取ることができます。

 

3 未支給年金

未支給年金とは,被相続人に支払われるはずであった年金のうち,支払い日までに被相続人が死亡してしまった場合に給付される年金です。
これについては,法律で受取人の順位が決められており,その受取人固有の権利とされるので,受け取ることができます。

 

しかしながら,実務の現場では,さらに大きな壁があります。

 

考え方を知っていることと,請求しようとしている金銭が法定単純承認事由に該当しない法的性質のものであると確定できることとは,全く別の問題です。

 

死亡保険金・死亡退職金は,契約の内容によっていくらでも性質が変わってきますし,会社によって書き方や表現の仕方も変わるので,個別具体的に確認しなければなりません。

 

公的機関から受け取ることができる金銭についても,都度何の法律のどの条文に基づくものであるかを,できれば窓口で確認し,支給の根拠条文が記された書面をもらいたいところです。

 

上には記載しませんでしたが,高額医療費の還付金などは,より複雑です。

高額医療費の還付金は世帯主に支払われるものです。

高額医療費を支出した人が世帯主であり,亡くなった場合,相続人を世帯主に変更すると,一見相続人固有の権利として還付金を受取れそうに見えます。

しかし,高額医療費の還付金を請求できる権利が確立した日が,被相続人死亡日前であったりすると,還付金請求権が被相続人の債権ともなり得ます。

こうなると,請求することは差し控えた方がよいということになります。

相続放棄は簡単?

新年が明けまして,令和も2年目に入りました。

 

東京で相続を中心に取り扱っている,弁護士の鳥光と申します。

 

今年もよろしくお願いいたします。

 

ここ数年,相続放棄がとても増えています。

 

亡くなられた親御さんが多額の借金を有していたため,突然金融機関から多額の請求をされ,大変な不安を抱えながらご相談に来られる方も多いです。

 

相続放棄は,本当は簡単な手続きではありません。

 

申述書の書き方,裁判所からの質問状への回答,相続放棄が完了するまでの残置物や債権者への対応,相続放棄完了後の債権者からの訴訟リスク対応等,どれか一つ間違えても,相続放棄が認められなかったり,親の借金を背負うことになってしまったりします。

 

また,相続放棄の代理人になれるのは弁護士のみです。

 

相続放棄申述書を裁判所に提出すると,裁判所から質問状が送付されてきます。

 

この質問状は十数問に渡る複雑なものである場合もあり,回答の仕方次第では,相続放棄が却下されるリスクがあります。

 

送付先は本人の場合もあれば,代理人の場合もあります。

 

代理人がいない場合(ご本人または弁護士以外に相続放棄を頼んだ場合),質問状は本人に送られてきます。

 

代理人に送付された場合,ちゃんと相続放棄が認められる内容で回答することができます。

 

さらに,代理人が就いていると,裁判所によっては質問自体をせずに受理してくれることもあります。

 

ご本人に質問状が送られたとしても,代理人がいれば質問の趣旨等を代わりに裁判所に問い合わせたうえで,的確な回答作成をサポートすることができます。

特に,被相続人の死亡から3か月以上経過している場合や,遺産分割協議など法定単純承認事由に該当する行為を行っている場合,過去の審判例などを引用したうえで,疎明資料を添付し,必要に応じて代理人として裁判所と電話や書面のやり取りを行います。

 

私は,被相続人が亡くなってから5か月経過しており,かつ被相続人の預貯金でもって被相続人の債務を返済してしまったケースにおいても,事情を詳しくお聞かせいただき,相続放棄が認められる法律構成を行い,裁判所に対して上申書等を提出した結果,無事相続放棄を認めてもらうことができた実績もあります。

 

相続放棄でお悩みの際は,ぜひご相談ください。

予防法務と相続放棄 その2

弁護士法人心東京駅法律事務所にて,相続案件を中心に担当している鳥光と申します。

 

さて,前回に引き続き,相続放棄における生前対策のお話です。

 

前回,相続放棄には次の2つの特徴があるため,事前に抑えておかなければならない点がある旨を書きました。

 

 

1 申述期限が相続開始を知った日から3か月以内と,非常に短いこと

 

2 相続放棄が認められなくなる行為をしてはならないこと

 

 

今回は,2についてお話をいたします。

 

相続放棄は,法定単純承認に該当する行為をしてしまうと,認められなくなります。

 

法定単純承認に該当する行為とは,相続財産の処分です。

 

すなわち,被相続人の財産を売却したり,廃棄したり,自分の名義に換えることをしてしまうと,相続放棄ができなくなる可能性が発生してしまいます。

 

また,積極財産だけでなく,被相続人宛ての請求(負債)に応じて支払いをすることも法定単純承認に該当する行為になることがあります。

 

財産を処分した後でこのことを知っても,取り返しがつきません。

 

そのため,相続が発生する前に,このことをしっかり抑えておく必要があるのです。

 

しかしながら,一点難しい問題があります。

 

それは,相続財産の処分には,どのようなものが含まれるのか,という点です。

 

わかりやすい例としては,相続人が被相続人の預貯金を引き出して私利私欲のために費消したり,金品や不動産を売却してしまうことが挙げられます。

 

他方,被相続人の住居にある残置物の処分はどうでしょうか。

 

残置物は,たとえ再販価値がほとんどなくとも,被相続人の所有物であったものなので,相続財産の一部です。

 

生ごみや紙くずなどの明らかなゴミなら処分してよいのか,古い家電は処分しないでおくべきなのか,かなり悩ましいのが現実です。

 

特に被相続人が賃貸物件に住んでいた場合などは,賃貸人や管理会社との関係でも,早く処分して明渡したいと感じるのが人情です。

 

他にも,被相続人あての水道光熱費の請求なども,支払ってしまいたくなると思います。

 

しかし,踏みとどまっていただく必要があります。

 

このような場合,基本的には一切手を付けず,債権者から何らかの連絡が入った場合には相続放棄手続き中である旨を伝えていただくのが安全です。

 

そのうえで,賃貸人などの債権者に掛ける迷惑をどのように低減するかを検討します。

 

相続放棄は,手続き自体は複雑ではありません。

 

しかし,相続放棄を検討されている方が置かれている状況は,複雑かつ悩ましいケースが多いと感じます。

 

安心して相続放棄を行うために必要な事前対策はケースバイケースですので,相続放棄を検討しようと思い立った段階でご相談をいただくのがベストです。

予防法務と相続放棄 その1

東京は台風も通り過ぎ,秋らしい気候になってきました。

 

一日の中での気温の変化が大きいので,体調管理には気を付けたいところです。

 

数年前から,「予防〇〇」という言葉をよく耳にします。

 

なじみのあるものとして,予防医学というものがあります。

 

これは,病気になってから治療をするのではなく,予め病気にならないように備える行動をするというものです。

 

法律全般についても予防法務という言葉があります。

 

紛争が起こってから法的に解決するのではなく,予め法的な紛争が起こらないようにするというものです。

 

そして相続についても同じことが当てはまると感じます。

 

相続の場面でいえば,「生前対策」と言い換えることもできます。

 

生前対策と一言で申しても,かなり幅が広いです。

 

遺産分割の争いを予防するために遺言を作成する,相続税の支払い資金を用意するため生命保険に入る,など様々なものが考えられます。

 

今回は,次回との2回に渡り,相続放棄についての生前対策を考えてみます。

 

相続放棄と生前対策は,一見結びつかない感じがします。

 

しかし,相続放棄には,事前に抑えておかなければならない点がたくさんあります。

 

その理由は,相続放棄には以下の2つの特徴があるからです。

 

1 申述期限が相続開始を知った日から3か月以内と,非常に短いこと

 

2 相続放棄が認められなくなる行為をしてはならないこと

 

まず,1につきまして。

 

相続放棄は,裁判所に提出する申述書を作成しなければならないことに加え,戸籍謄本類などを公的機関から取り寄せなければなりません。

 

ご兄弟の相続放棄などは,取り寄せる資料が多く,非常に時間と手間がかかります。

 

申述期限が非常に短いため,被相続人が亡くなった(相続が開始した)ことを知ってから相続放棄のことについて調べたり,検討を始めたりすると,相当タイトなスケジュールで資料入手やその後の手続きを行わなければなりません。

 

平日日中にお仕事をされている方であれば,かなりの無理を強いられる可能性もあります。

 

そのため,例えば多額の借金を抱えている親御さんが亡くなりそうで,相続放棄をする可能性があるのであれば,予め必要な書類や手続きを確認しておき,お亡くなりになられたらすぐに相続放棄のための行動を開始できるようにしておく必要があります。

 

次回は,2について説明いたします。

相続放棄の判断基準

ブログにアクセスいただき,ありがとうございます。

 

東京近郊における相続に関する事案を中心に担当している,鳥光(とりみつ)と申します。

 

弁護士として相続関連のご相談を多数受ける中でも,相続放棄に関連する事案が増えています。

 

相続放棄は,一般的には,相続すると損をする場合になされることが多いです。

 

わかりやすい例では,亡くなった親御さんが預貯金も不動産も持っておらず,借金だけがあったという場合です。

特に東京近辺では,他の地域に比べ,ご自宅も賃貸であることがあるので,亡くなった方が不動産を所有していないというケースはままあります。

このような場合,相続してしまうと,何も財産が得られず,自分で借りたわけでもない借金だけを負わされてしまうので,放棄した方がよいということになります。

 

ところが,実際に相続放棄のご相談にいらっしゃる方の状況は少し違います。

 

親御さんの財産状況がほとんどわからない,というケースが一番多いのです。

 

疎遠になっていた親が亡くなったという通知が自治体などから入って,相続が起きたことを知ったような場合,そもそも親の財産のことはほとんどわかりません。

 

ただ,昔,親が多額のお金を借りていたらしいという話を聞いたということから,不安なので相続放棄をしてしまいたいというようなご相談が一番多いです。

 

相続に関する事案に共通して言えることですが,亡くなった方の財産を完全完璧に調べ上げることは非常に困難です。

 

それが疎遠になっていたり,財産に関する情報をほとんど教えていなかった親のことであればなおさらです。

 

本来的には,相続放棄をするかしないかの判断は,被相続人の財産を完全に調べ上げ,負債の方が大きいということがわかってから下すべきです。

 

しかし,相続放棄の申述は被相続人の死亡を知った日から3か月以内に行うのが原則であり,申述期限の延長も無制限に認められているわけではありません。

 

なにより,不安な状態を解消したいというのが,ご相談者の一番のご要望であることもあります。

 

そこで,実際にご相談を聞いてみて,被相続人が不動産などの財産を持っていた形跡がある(たとえば固定資産税の通知書があったなど)のであれば,時間の許す限り調べ,そうでなければ放棄を検討しましょうというお話をすることが多いです。