【相続放棄シリーズ】9 相続放棄は被相続人が死亡後3か月以内にしたい

東京都には緊急事態宣言がなされ,人通りもかなり減ってきました。

 

相続放棄の申述期限は延期されないため,相続放棄手続代理人としての仕事は平常運転となっております。

 

弁護士法人心で相続を担当している,鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズも9回目となりました。

 

今回は,相続放棄の期限について,改めて考えてみます。

 

1 相続放棄の申述期限

相続放棄は,相続の開始があったことを知った日から3か月以内,と定められています。

 

相続が開始した日(=被相続人が死亡した日)から3か月以内ではありません。

 

これは,相続放棄手続の機会及び熟慮期間の保障のためであると考えられます。

 

何らかの事情で3か月以上被相続人が死亡したことを知ることができず,知った時には申述期限を過ぎてしまっていた,という事態に陥ることを防ぐということです。

 

2 相続の開始があったことを知った日

では,相続の開始があったことを知った,とは具体的にはどのようなことをいうのでしょうか。

 

以下に,典型的なものを挙げてみます。

 

①被相続人が死亡したことを看取った場合

被相続人が死亡した日に,死亡したことを知ったことになるので,被相続人死亡日が,相続の開始があったことを知った日になります。

 

②他の相続人や親族から,被相続人が死亡した旨の連絡を受けた場合
連絡を受けた日が,相続の開始があったことを知った日となります。

被相続人が遠方に住んでいて,あまり交流をしていなかった場合等は,被相続人が死亡してから数日経った後に連絡が来ることもあるので,被相続人死亡日よりも後の日付になります。

後述しますが,電話連絡があった場合でも,その日が知った日になりますが,相続放棄申述書に添付する資料があると安心ですので,日付の入った手紙やメールなどがあるとベターです。

 

③市役所等から書面等により被相続人が死亡した旨の連絡を受けた場合

正確には,書面等を受取って読んだ日が,相続の開始があったことを知った日になります。

もっとも,この書面の写しを相続があったことを知った日を根拠づける資料として裁判所へ提出することが多いので,書面に記載された日付を,相続の開始があったことを知った日とする対応をすることもあります。

 

④債権者等から書面により被相続人が死亡した旨の連絡を受けた場合

③と同様,書面を読んだ日が,相続の開始があったことを知った日となりますが,便宜上書面に記載された日付をもって,相続の開始があったことを知った日とすることがあります。

3 相続放棄は被相続人が死亡した日から3か月以内に行った方が良い

 

相続放棄は,理論上は,相続の開始があったことを知った日から3か月以内に行えばよいので,被相続人が死亡した日から10年後であっても,被相続人が死亡したことを知った日から3か月以内であれば行えます。

 

もっとも,裁判所としては,被相続人が死亡した日から3か月以上経って相続放棄の申述がなされた場合,相続の開始があったことを知った日が,被相続人死亡日より遅くなった理由を確認します。

事情を説明する文書を作成するとともに,手に入る範囲で根拠となる資料も添付しなければならない場合もあります。
審査も厳格になる可能性があり,場合によっては却下されないとも限りません。

 

そのため,被相続人死亡日よりも後に被相続人が死亡したことを知った場合であっても,被相続人死亡日から3か月以内に申述が可能であれば,急いででも被相続人死亡日3か月以内に相続放棄の申述書を裁判所に提出した方が安心です。

【相続放棄シリーズ】8 相続放棄の定義を今一度

4月に入り,桜の花も散り始めました。

 

これから暖かくなっていくにつれ,アクティブに行動をしたくもなりますが,コロナウィルスの影響下においては極力外出を控えたいところでございます。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ8回目となる今回は,今一度相続放棄の定義について考察します。

 

1 事実上の相続放棄

相続放棄という単語は,とても抽象的です。

 

一般的には,相続が発生した際に,他の相続人に対して相続財産を取得しない旨を伝えるという意味で使用されることもあります。

 

具体的には,遺産分割協議書等において,署名・押印部分には相続人として名前が表示されていても,条項においては遺産の取得者としては登場しないという形になります。

 

これは,専門家の世界では事実上の相続放棄などと呼ばれます。

 

後述する民法上の相続放棄と比較すると,プラスの相続財産を取得しないという点では効果は同じです。

 

一方,あくまでも相続人という法的地位がなくなるわけではないので,相続財産に含まれるマイナスの負債については,そうなりません。

 

遺産分割協議書において,プラスの相続財産を取得しない代わりに,被相続人の負債も負担しない(他の相続人が負担する)旨を記載しても,債権者には対抗できないので,別途免責的債務引受などを行わないと負債から逃れることはできません。

 

また,事実上の相続放棄は,遺産分割協議書後に新たに相続財産や相続債務が発見された場合も,都度遺産分割協議に加わり,財産を取得しない旨を記載した書面に署名・押印しなければならないという手間も生じます。

 

2 民法上の相続放棄

民法には,相続放棄についての条文が明記されています。

 

民法上の相続放棄をすると,初めから相続人でなかったことになります。

 

つまり,相続人としての法的地位が消滅するという点が,事実上の相続放棄との大きな違いです。

 

例外としての相続財産の管理責任が生じる点を除き,被相続人の相続とは無関係の存在になります。

 

生物学的には夫婦,親子,兄弟関係にあっても,相続に関する法律上は赤の他人というイメージです。

 

当然,被相続人の財産も負債も無関係ということになります。

 

相続は,原則として,相続人の意思とは関係なく,被相続人との家族関係によって自動的に発生してしまいます。

 

相続放棄は,この原則に対する例外として設けられている制度です。

 

民法上の相続放棄は,管轄の裁判所に対し,相続放棄申述書と附属書類を提出し,相続放棄申述が受理されることで初めて成立します。

 

事実上の相続放棄と異なり,決まった手続きを行い,裁判所に受理してもらわなければなりません。

 

事実上の相続放棄には原則として期限はありませんが,民法上の相続放棄は厳格な期限が設けられている点にも注意です。

 

期限は,相続の開始を知った日から3か月以内です。

【相続放棄シリーズ】7 債権者の立場

年度の終わりも近づき,世間では新年度を迎える準備に追われている方もいらっしゃるかもしれません。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所でも,4月から新入社員が加わります。

 

相続放棄シリーズ7回目は,債権者の立場の考察です。

 

1 債権者

債権者という言葉はとても広い意味を持ちますが,相続放棄の際の債権者とは,多くの場合被相続人に対して金銭を請求する権利(金銭債権)を有する人のことを指します。

 

銀行やクレジットカード会社,賃貸物件の賃貸人,税金の滞納がある場合には国や市町村が債権者になることが多いです。

 

2 相続放棄と債権者との関係

被相続人に対して金銭債権を有していた人は,その相続人に対して,債権額に対応する金銭を支払うよう請求できるのが原則です(複数の相続人がいる場合,各相続人には法定相続割合に対応する金銭の支払い義務が生じます)。

 

相続人が相続放棄をすると,基本的に債権者はその(元)相続人に対して請求をすることができなくなります。

 

つまり,一般論としては,債権者にとって相続放棄とはとても都合の悪い制度ともいえます。

 

3 実際には

これはあくまでも個人的な経験ですが,債権者にとって相続放棄が必ずしも悪いものではないようです。

 

もちろん,債権が回収できなくなるので,損失が生じてしまうという点は揺るぎません。

 

もっとも,通常,債権者は回収不能のリスクを初めから織り込んでいます。

 

そして,支払いが滞った債権がある場合,回収作業,手続きを開始するのですが,これには人手もかかりますし,支払い交渉などタフなコミュニケーションを長期間行わなければならない可能性もあります。

 

相続人に対して回収をしようとするならば,そもそも相続人調査を行わなければならず,骨が折れます。

 

これだけの労力を割いてもなお,必ず支払われるという保証もないので,金額が少額である場合や,あまりにも遠い相続人に請求しなければならない場合など,場合によっては早く貸し倒れ処理をし,案件をクローズしまいたいケースもあるようなのです。

 

そこで,小職は,相続放棄を受任した際,債権者が判明している場合には,相続放棄手続き完了後に債権者へ連絡を取り,相続放棄申述受理通知書の写しを送付するなどの対応を行っております。

【相続放棄シリーズ】6 相続放棄の理由はさまざま

暖かい日が増え,東京駅前では桜も咲き始めました。

 

もっとも,新型コロナウィルスの影響もあり,昨年に比べて桜を鑑賞しに来る人も減っているように感じます。

 

相続放棄シリーズ第6回目です。

 

今回は,相続放棄をする理由についてです。

 

1 相続放棄申述書記載事項

相続放棄の手続きを行う場合,裁判所に対して相続放棄申述書という書面を提出します。

 

通常,書面には,「申述の趣旨」と「申述の理由」を記載します。

 

「申述の趣旨」とは,申述人が裁判所に求める事項を端的に表したもので,「被相続人の相続を放棄する」というような書き方をします。

 

「申述の理由」とは,文字通りですが,相続放棄をしたい理由を書きます。

 

相続放棄を考えるに至った理由というと,一番初めにイメージされるのは,被相続人が有していたプラスの財産よりも,借金などマイナスの負債の方が大きい場合です。

 

たしかに,経験上もこのケースが一番多いです。

 

しかし,これ以外の理由でも全く問題ありません。

 

極端なことを言えば,被相続人に十分な財産があったとしても,他の相続人と関わりたくない,遺産分割協議が面倒なので無関係になりたい,という動機で相続放棄をしても構わないのです。

 

実際に,以下のようなケースもありました。

 

依頼者様のお父様がお亡くなりになったのですが,お父様の配偶者(依頼者様のお母様)は,昔から自己中心的で全く話が通じない性格であり,突然激昂して過激な行動を起こすこともあったため,遺産分割の話をしようもなく,仮にしたとしても何が起こるかわからない状況でした。

 

依頼者様は既にお母様とは離れた場所で暮らしていたため,「他の相続人と関わりたくないため」という理由にて,小職が代理人弁護士となって相続放棄手続きを行ったうえで,相続放棄申述受理通知書をお母様宛に送付しました。

 

2 被相続人死亡後3か月以上経過している場合には詳細な説明をする

相続放棄の申述の期限は,相続の開始があったことを知った日から3か月です。

 

理論上は,相続の開始があったことを知った日から3か月以内に相続放棄申述を行えば,相続放棄は認められます。

 

もっとも,被相続人死亡日から3か月以上経過してから相続放棄を行う場合には,被相続人死亡日よりも後になって相続の開始を知ったことを,裁判所に対して示さなければなりません。

 

言い換えますと,被相続人死亡から3か月以内であれば,理由は簡素なもので良く,極端に言えば,相続に関わりたくないという,消極的なものでも構わないことになります。

 

他方,被相続人死亡から3か月以上経過しているのであれば,裁判所を納得させられるだけの理由が必要です。

 

被相続人が孤独死しており,ご遺体の損壊が激しかったため,DNA鑑定等によって身元が判明したのが死亡日から6か月後であったというケース,10年以上も前に音信不通になった親が1年以上前に死亡しており,親の債権者から金銭の支払いを求められて初めて親の死亡を知ったケースなどは,相続放棄申述書に詳しい事情を記載したうえ,可能な限り根拠となる資料を添付します。

 

特に,被相続人が死亡したことは知っていたが,3か月以上経過した後になって,多額の債務の存在が判明した場合などは,相続放棄をする理由を「債務超過のため」であるとし,債務の内容や債務の存在を知った経緯を詳細に記述する必要があります。

 

3 相続放棄の理由は多様化する可能性

先述の通り,現時点においては,相続放棄の理由の大半は債務超過(またはそのおそれ)です。

 

しかし,これは私見ですが,ライフスタイルの変化とともに,相続放棄の理由も変わってくると考えております。

 

相続が発生すると,法律上・事実上,非常にたくさんの手続きや作業が発生しますし,遺産分割に争いが生じると数年に渡って他の相続人とネガティブなコミュニケーションをしなければならなくなります。

 

私生活における面倒ごとや判断しなければならないものの数を極力減らすという思考も増えてきている傾向からすると,相続が発生したら,機械的に相続放棄をし,完全に無関係の立場を作るという人も出てくるのではないかと思います。

 

相続放棄は,遺産を相続することが原則であるとするならば例外処理にあたりますが,相続放棄の方が主流になるという可能性もゼロではないのかもしれません。

【相続放棄シリーズ】5 お悩みー後順位相続人への連絡

3月も後半になり,かなり気温が上がる予報も出てくるようになりました。

 

個人的には,今年は花粉も強くない感じがします。

 

別の理由でマスクは手放せませんが。

 

今回は相続放棄シリーズ5回目,相続放棄後の後順位相続人への連絡について取り上げます。

 

1 後順位相続人

相続は,順番が決まっています。

 

第1順位は,被相続人の子です。

 

第2順位は,被相続人の直系尊属(両親,祖父母など)です。

 

第3順位は,被相続人の兄弟姉妹です。

 

被相続人に子がいない場合,または先に死亡しておりその子(代襲相続人といいます)もいない場合,第2順位の直系尊属が相続人になります。

 

第2順位の直系尊属もいない場合(実際には既に死亡していて,いない場合が多いです),第3順位の兄弟姉妹が相続人になります。

 

ちなみに,被相続人の配偶者は,常に相続人になりますので,順位は関係ありません。

 

2 後順位相続人は,順番待ちをしなければならない

先の順位の相続人がいる場合,後順位相続人には,まだ相続が発生しません。

 

先順位相続人が相続放棄をすると,初めて後順位相続人に相続が発生します。

 

そのため,後順位相続人の人は,先順位相続人が相続放棄をするまで,相続放棄手続を行うこと自体ができないのです。

 

言い換えますと,先順位相続人が相続放棄をしたことを知った日から,相続放棄の申述期限のカウントダウンが始まってしまいます。

 

3 後順位相続人への連絡

先順位相続人が相続放棄をしたことを知った日とはなんでしょうか。

 

厳密にいえば先順位相続人から相続放棄をしたことを口頭で聞かされた日であっても,これにあたります。

 

しかし通常,裁判所に対して,先順位相続人が相続放棄をしたことを知った日を裏付ける資料を付けることが多いので,日付入りの書面で通知をすることが多いです。

 

弁護士であれば,先順位相続人の代理人として相続放棄を行った後,先順位相続人に代わって後順位相続人へ連絡をすることがよくあります。

 

そうしないと,知らないうちに後順位相続人に(利用価値の少ない)不動産の所有権が移っていたり,債権者からの支払い催促がなされてしまうことがあり,後順位相続人の方に不要な不安が生じてしまうことがあるためです。

【相続放棄シリーズ】4 お悩みー質問状対応

我が国において3月から4月は,年度が変わる時期でもあり,とてもあわただしい場面もあります。

 

法律関係の手続きなどでもお忙しい方がたくさんいらっしゃるかと思います。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所で相続案件を中心に取り扱っている,鳥光でございます。

 

さて,今回で相続放棄シリーズも4回目となります。

 

以外と知られていない,そして多種多様なパターンがある,相続放棄に関する質問状(照会書兼回答書)について,お話をします。

 

1 質問状(照会書兼回答書)について

相続放棄の手続きと聞くと,相続放棄申述書とその付属書類を裁判所に提出することを想像する方が多いと思います。

 

もちろん,これも相続放棄の手続きに必要な行為ですが,一部に過ぎません。

 

相続放棄は,相続放棄申述書を裁判所に提出しただけでは終わりません。

 

裁判所は,相続放棄申述書を受取ると,書類の内容を審査します。

 

そして,審査がある程度の段階まで進むと,基本的に裁判所は,申述人に対し,書面で質問をします。

 

照会書兼回答書という名称で送付されてくることが多いです(裁判所によって運用が異なる)。

 

質問の目的は,申述人が本当にその意志で相続放棄の手続きを行っているか(なりすましや強要でないか),法定単純承認事由に該当する行為を行っていないか,を確認することにあると考えられます。

 

答え方によっては,相続放棄が認められなくなる可能性もあるので,回答は慎重に検討する必要があります。

 

2 質問状(照会書兼回答書)の送付先のパターン

質問状の送付は,裁判所によって運用が区々ですが,次の3つのパターンが多いです。

 

①申述人本人に対し,申述人の住所へ送付する(申述人が裁判所へ回答を返送する)

 

②代理人弁護士がいる場合,代理人弁護士の事務所宛に送付する(代理人が回答を返送する)

 

③代理人弁護士がいる場合に限り,そもそも質問状を送らない

 

仮に小職が相続放棄のご依頼をいただいた場合,①のパターンであれば,質問状のコピー等をいただき,内容を検討したうえで,回答を作成しアドバイスさせていただきます。

 

②のパターンであれば,小職が回答を作成し,裁判所へ返送します。

 

③のパターンであった場合は,質問状への回答によって相続放棄が認められなくなるリスクをゼロにできます。

 

手前味噌ですが,これは弁護士が代理人に就くことの大きな価値の一つです。

 

3 質問の内容

質問状(照会書兼回答書)に記載されている質問についても,裁判所によって区々です。

 

1,2問程度の簡単な質問しかしない裁判所もあれば,10問以上の質問をし,しかもやや専門的な内容が混じるような裁判所もあります。

 

どの裁判所がどのような運用をしているかは,申述を行ってみるまでわかりません。

 

経験上,申述人本人に質問状を送付する裁判所は,質問が多く,かつ高度なものである傾向があると考えられます。

 

代理人に質問状が来る場合,簡素なものであることが多いです(代理人により,事前に申述人に対するチェックが働いているという前提なのだと思います)。

 

申述人ご本人様に質問状が送付された場合,焦らず,専門家に内容を伝えて,回答を検討すれば安心です。

【相続放棄シリーズ】3 お悩みー金銭請求

春は暮らしやすいものの,天候が不安定な日もあり,外出や出張の際の持ち物に悩みます。

 

急な天候変化にはお気を付けください。

 

東京駅前にある弁護士法人で相続案件を扱っている鳥光と申します。

 

相続放棄シリーズ3回目となります。

 

今回は,被相続人に関する金銭請求についてお話します。

 

1 被相続人に関する金銭

被相続人がお亡くなりになった際,受取ることができるお金が発生することがあります。

 

典型的なものとしては,生命保険金,未支給年金,退職金などが挙げられます。

 

そして,相続放棄を検討されている方にとって,これが最も悩ましいものとなります。

 

2 被相続人に関する金銭を受取るべきか否か

相続放棄を検討する際,法定単純承認事由に該当する行為を行ってはいけません。

 

法定単純承認事由に該当する行為の一つとして,債権の取り立てがあります。

 

ここでいう債権とは,被相続人の債権であり,取り立てとは,お金を請求できる権利を行使してお金を受取ることです。

 

つまり,被相続人が亡くなられたことに伴って受取ることができるお金が,被相続人の債権に基づくものであった場合,受け取ってしまうと法定単純承認事由に該当する可能性があるのです。

 

そして,とても悩ましいことに,被相続人が亡くなった際に受取ることができるお金には,被相続人の債権に基づくものと,相続人固有の権利に基づくものがあります。

 

前者に該当する債権に基づくお金を受取ることはできませんが,後者に属する債権に基づくものであれば,そもそも相続財産ではないので受け取っても法定単純承認事由にはなりません。

 

被相続人が生前貸し付けていたお金の返済のために支払われる金銭などは前者に該当しますので,受取るべきではありません。

 

被相続人が契約者・被保険者で相続人が受取人となっている生命保険金,相続人を受取人として定めている死亡退職金・未支給年金,葬儀を主宰する者に支給する旨が条例等で定められている葬儀費用補助金などは,相続人等固有の権利ですので受取ることができます。

 

3 実務上の問題

受け取っても法定単純承認事由に該当しないお金について述べましたが,実務の現場ではもっと大きな問題があります。

 

それは,受取ろうとしている金銭が,本当に受取っても法定単純承認事由に該当しないものであるかを確定させることです。

 

抽象的に受け取ってよいお金とそうでないお金を述べることはできます。

 

しかし,本当に受け取ってよいかを厳密に判断するには,個別具体的に書類等を精査し,場合によっては会社や市町村の窓口まで行き,相続人固有の権利に基づく支払いである旨の確認まで取らなければなりません。

 

これはマンパワーの側面においても,容易なことではありません。

 

そのため,相続放棄検討段階では請求はせず,相続放棄を終えたあと,または並行して時間をかけて受け取れる金銭であるかを検討する方が良いです。

 

通常,相続放棄申述期限のうちに受け取らなければならないという金銭はないため,受け取れることが確定出来たら,ゆっくりと受取ればよいのです。

【相続放棄シリーズ】2 お悩み-債権者対応

3月は暖かい日,寒い日,雨の日,風が強い日が入り混じり,天気が安定しません。

 

外出の際の準備には悩みます。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所で相続案件を担当している鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ2回目は,相続放棄を検討されている方が非常に悩むことの多い,債権者対応についてでございます。

 

1 被相続人の債権者

債権者という言葉は専門的なので,具体的にはどのような人を指すかイメージが付きにくいと思います。

 

わかりやすいものとしては,クレジットカード会社,消費者金融,銀行などがあります。

 

その他,これら債権者に対して保証金を支払った事業者もいます(求償権の行使)。

 

保証会社は,消費者金融のように広く一般的に知られていないものですし,求償権の行使は法律構成がやや複雑になりますので,一見すると何を請求されているのか,専門家でないとわかりにくいこともあります。

 

また,債権者から回収を依頼された弁護士から連絡が来ることもあります(この場合,弁護士はあくまでも代理です)。

 

さらに,イメージしにくいですが,被相続人が税金を滞納していた場合,市町村等から支払い請求が来ることがあります。

 

この場合,市町村等も債権者です。

 

2 債権者からの通知

上記の債権者は,何かしらの形で,お金を支払ってほしいという連絡をします。

 

ほとんどの場合,書面で連絡があります。

 

圧着式のハガキや,封筒に,支払いを請求する旨の通知が記載されることが多いです。

 

たまに,地方などでは銀行の担当者が直接訪問してきて,被相続人負債の話をすることもありますが,最終的には書面を渡される形になります。

 

宛先は,被相続人になっていることもあれば,相続人になっていることもあります。

 

被相続人名義で送られる場合は,おそらく債権者が被相続人が亡くなったことを知りません。

 

つまり,相続人に債務が移っているという認識がありません。

 

宛先が相続人になっている場合,債権者は被相続人の死亡を知っているとともに,相続人の調査も行っています。

 

どちらが強いということはないのですが,後者はコストをかけて相続人調査をしているということを考えると,より請求する意思が高いとも考えられます。

 

3 相続放棄をする場合の債権者対応

① 検討段階

まだ相続放棄をすることを決め切っていない場合や,専門家への依頼を完了していない段階では,とにかく支払いに応じないことが大切です。

 

支払いに応じないといっても,通常であれば単に債権者からの通知をそのままにしておくだけで済みます。

 

仮に電話連絡などが来てしまった場合は,相続放棄を検討中であることだけ答えます。

 

たまに,申述期限が過ぎているからできない,などと言われることもあるようですが,下手に反論しないことが大切です。

 

② 相続放棄手続段階

実際に裁判所に対し相続放棄申述を行ったり,専門家に相続放棄を依頼した段階になっても,あまりやることは変わりません。

 

通知書面は基本的に手を付けずにおき,電話連絡等があった場合には相続放棄手続中である旨だけ答えます。

 

③ 相続放棄完了後

相続放棄が完了すると,裁判所から相続放棄申述受理通知書というものが届きます。

 

債権者に対しては,この写しを提供します。

 

通常,債権者側は相続放棄申述受理通知書の写しの提供を受けることで,回収不可能と判断し,その後の請求を止めてくれます。

 

とはいえ,債権者へ連絡することはとても勇気がいります。

 

特に債権回収の代理人が弁護士であったりすると,とても連絡がしにくいと思います。

 

そのような場合,小職は相続放棄完了後に,各債権者に対して債権の状況確認を行ったうえで,相続放棄申述受理通知書の写しを提供し,これ以上請求が起きないようにするサービスも行っております。

【相続放棄シリーズ】1 相続放棄にはご法度がある

3月に入り,暖かい日が増えてきました。

もっとも,この時期は例年花粉症に悩まされる時期であり,しかも今年はコロナウィルスの問題もあるので,外出には気を付けたいところです。

東京駅前にある弁護士法人心にて,相続案件を扱っている,鳥光でございます。

相続放棄に関する相談を受けることが非常に増えたことから,今後ブログにて相続放棄に関する情報を発信していこうと考えております。

今回は,第1弾として,相続放棄を検討している段階において,行ってはならないことをまとめます。

1 原則

相続財産の処分をしてはいけません。

これを行うと,相続放棄が認められなくなります(法定単純承認事由)。

2 処分って何?

もっとも,条文には「処分」としか書いておらず,具体的に何が処分にあたるかについては,未だ明確になっていません。

不動産の名義変更をして売り払ったり,預貯金の払い戻しを受けて自分のために費消することは,処分の典型にあたりますので,絶対に行ってはならないということはわかります。

しかし,(普通に考えればゴミのような)残置物を処分したり,亡くなった人の携帯電話の解約をしたり,公的な支給金を取得したり,被相続人の宛ての請求の支払い等についてはいかがでしょうか。

これらについては,通説,実務上は法定単純承認事由とならないケースもありますが,明確に条文や判例において認められているわけではないので,非常に悩ましいと言わざるを得ません。

ネット上には様々な情報が存在しています。

そのほとんどは正しい情報であると考えられますが,抽象的なものであるため,実際にご自身が行おうとしている行為が本当に法定単純承認事由に該当しないか否かは,個別具体的に当てはめを行って判断しなければならず,簡単には判断できないのです。

これは私見ですが,相続放棄はここ数年で急激に増えていることもあり,相続放棄制度に付随する上記問題について,法整備が追い付いていないのではないかと感じることもあります。

3 では,どうするか?

相続放棄の可能性があるならば,とにかく,余分なことをしないという意識を持つことが一番重要です。

極論すれば,被相続人がお亡くなりになったことを知った際,とりあえず何もしないのが一番安全です。

さらに言えば,被相続人がご存命のうちから,相続放棄制度について理解し,うっかり法定単純承認に該当しそうな行為を行ってしまわないように予備知識を入れておくことが大切です。

音信不通で疎遠な親族がいる場合にも同じことが言えます。

当該親族が亡くなると,突然相続人に対して借金や滞納家賃等の請求が来ることもあります。

そのような時に,相続放棄の知識がないと,焦って請求に応じてしまい,後戻りが困難になる可能性もあります。

しかし,現実には,相続放棄のご相談をいただいた時点において,すでに法定単純承認事由に該当するかもしれない行為を行ってしまっているケースの方が多いです。

そのような場合,事情を詳しくお聞かせいただき,法律構成の仕方によっては,相続放棄が認められるようにできる可能性もありますので,ぜひご相談ください。

相続放棄をお考えの方はこちら