相続財産管理人日誌2

相続財産管理人日誌第2回目です。

 

本ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

 

相続財産管理人弁護士としての体験談を、秘密の漏洩にならない範囲で記していきます。

 

 

相続財産管理人に選任され、相続不動産の登記を行うことと並行して、相続財産管理人選任申立てを行った申立人との面談により、詳しい事情を伺いました。

 

今回は、やはり相続財産に関する情報はほとんど得られていないとのことでした。

 

これは特に申立人に非があるのではなく、類型上仕方のないことでした。

 

一方、申立人は立場上、相続財産以外については、様々な資料を取得、提供しやすい方でしたので、申立書の写し一式や、公的な書類を提供してもらうことができました。

 

実は、これは後ほどとても重要な意味を持ってきます。

 

特に、申立書一式に含まれる戸籍謄本類の写しは、被相続人の預貯金の解約・名義変更、金融資産の売却換価の際、必要となるケースがあります。

 
(相続財産管理人選任審判書を示すだけでよい場合が多いですが、保険会社等は、相続人が不存在であることを証明するのに足りる戸籍謄本類一式の写しを要求することがあります。)

 

もしも、改めて戸籍謄本類一式を集めるとなると、膨大な手間と費用がかかります。

 

相続財産管理人選任申立てのために必要な戸籍謄本類は、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、すべての相続人の死亡記載戸籍(または相続放棄をしたことを示す書類)のほか、被相続人の父母の出生から死亡までの連続した戸籍です。

 

これらを改めて収集するのは、非常に大変です。

 

相続財産の換価処分にも大きな影響を与えます。

 

そのため、申立人から、相続財産管理人選任申立の際の書類一式をいただくことは、とても大切なのです。

相続財産管理人日誌1

今日もブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 

私は弁護士業務の中でも、相続放棄にとても注力しております。

 

そんな中、先日相続財産管理人に選任され、業務を進めております。

 

相続放棄シリーズのスピンオフとして、相続財産管理人業務のことについても、これから記していこうと思います。

 

 

相続財産管理人に選任されたのは、少し前です。

 

家庭裁判所からご連絡をいただき、引き受けさせていただく旨の回答をしました。

 

その後、まず裁判所へ足を運び、事案概要の説明を受けます。

 

同時に、記録の閲覧も行います。

 

あまり具体的には記せませんが、今回は相続人全員が相続放棄をしたケースではなく、当初から相続人が不存在であるケースでした。

 

相続財産に関する情報が少ない類型ですので、相続財産調査が大きな課題になることが予想されました。

 

相続財産の中に自宅土地建物が存在していましたので、すぐに現地に行きました。

 

老朽化が進んでいる場合は補強等が必要になりますし、占有者が存在する可能性もあります。

 

実務上の問題として、害虫や害獣が住み着いていることもあり、業務を円滑に進めるためには、これらの駆除も必要になることがあります。
(実際、蜂に襲われました。これについては、別の記事で紹介します。)

 

一見したところでは、特に問題はなさそうでした。

 

特段傷んでいるところもなく、雑草等も少ない状態でした。

 

家庭裁判所より、相続財産管理人選任審判書を受け取ったら、すぐに登記を行います。

 

これは、亡くなった方の名義であった土地建物が、相続人不存在によって相続財産法人になったことを示すとともに、その管理人が誰であるかを公に示すことを目的とします。

 

これを行っておかないと、後日土地建物を売却換価することもできなくなります。

 

相続財産である土地建物を管轄する法務局(支局)へ行き、登記申請書と審判書等を用い、登記手続きを行います。

 

一般的な相続登記に比べると、必要な書類は少なく、かなり簡単に手続きを完了することができます。

 

もっとも、被相続人の登記上の住所の名称が変わっていた(物理的な住所は同じ)ため、市役所で住所表記が変更された証明書も取得して提出する必要がありました。

 

これにより、約2週間で登記が完了したので、変更後の登記(全部事項証明書)を取得し、裁判所へ報告しました。

【相続放棄シリーズ】28 相続財産管理人選任申立て

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ28回目は、相続財産管理人選任申立てについてです。

 

正確には、相続放棄とは別個の手続きですが、相続放棄後の相続財産の処理のために必要となる場合もあるので、ここで紹介させていただきます。

 

1 相続財産管理人
一言でいうと、相続財産管理人は、相続人が不在となった相続財産を清算する役割を持つ人です。

 

被相続人の財産は、相続人がそもそもいないか、または相続人全員が相続放棄をすると、法概念上、相続財産法人という法人になります。

 

相続財産管理人は、この法人の代表者に位置づけられます。

 

そして、被相続人の財産、たとえば預貯金であれば管理口座に移して管理し、不動産であれば汚損や倒壊等を防ぐ等の管理をします。

 

また、裁判所の許可を得て、必要に応じて財産を換価したり、処分したりします。

 

相続人、受遺者、特別縁故者が現れなかった場合、最終的には相続財産を国庫に納めます。

 

2 相続財産管理人が選任されるケース
大まかに3つのパターンがあります。

 

1つめは、元相続人が相続財産の管理に困っているケースです。

 

特に、古い建物が存在する場合です。

 

建物は人が使っていないと、急速に老朽化します。

 

時が経つにつれ、倒壊の危険が高まったり、不法占拠者が現れるなど、トラブルの発生率が上がります。

 

このようになってしまうと、元相続人に対して、何らかの責任追及がされる可能性もあります(あるいは、法的責任はないにせよ、近隣住民や市役所等から、事実上いろいろな要求がされ、対応に困ることもあります)。

 

そこで、相続財産管理人に相続財産の管理責任を委ね、処分をしてもらうという選択をすることがあります。

 

2つめは、債権者が債権回収をするケースです。

 

被相続人に借金がある場合、相続人が返済を免れるために相続放棄をすることがあります。

 

その結果、債権者は相続人に対して支払いを求めることができなくなるため、相続財産の中にめぼしい財産がある場合には、これを換価して弁済を受けるという選択を取ることがあります。

 

この場合、債権者が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをします。

 

3つめは、市町村等が空き家管理のために申し立てるというケースです。

 

近年、被相続人の家屋が放置され、地域の安全が脅かされたり、土地の有効活用ができなくなるという問題が増えています。

 

空き家の中には、相続人が元々不在のものや、相続人全員が相続放棄をしたものもあります。

 

このような空き家について、市町村等が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをし、空き家の処分をするという形になります。

 

3 相続財産管理人選任申立ての手続き
家庭裁判所に対し、相続財産管理人選任申立書と、付属資料を提出します。

 

付属書類の中には、財産目録がありますので、可能な限り正確に被相続人の財産を調査して、疎明資料とともに提出します。

 

また、相続人全員が相続放棄をしたことで相続人不在となった場合には、相続放棄申述受理通知書の写しや、相続放棄照会結果の写し等を添付します。

【情報セキュリティ】4 セミナー受講2

猛暑が続く季節となりました。

 

熱中症予防と体調管理には気を付けたいところです。

 

前回に引き続き、セキュリティ対策セミナーで学んだことについて記していきます。

 

今回は、テレワーク普及に伴って増えたサイバー攻撃についてです。

 

 

1 偽の会議招集等
コロナウィルスの蔓延により、テレワークやオンラインミーティングが普及してきました。

 
士業においてもテレワークをする方は増えましたし、会議やセミナーなどもオンライン出開催されることが増えました。

 
ネットワークを介して業務環境やミーティング環境へ接続する以上、接続先を指定する必要があります。

 
接続先情報は、メールなどで発信されることが多く、メールに記載されたアドレスにアクセスすることで、オンラインでの業務が可能となります。

 
この仕組みを悪用し、あたかもセミナーやオンラインミーティングの招集を装ったメールを送信する手法があります。

 
メールに記載された接続先にアクセスすると、マルウェアを仕込まれたりするという仕掛けです。

 
これに対しては、見覚えのない招集が来た場合、いったん疑ってみる以外の対処法はありません。

 

 

2 PC画面ののぞき見
非常に原始的かつ古典的な情報漏洩です。

 
オンラインで業務をすることができる環境が整うと、当然執務室以外の場所でPCを開く機会が増えます。

 
自宅の自分の部屋や、ホテルの部屋などでPCを開く分には問題は少ないですが、カフェや電車など、他の人が画面を見ることができる環境でPCを開いてしまうと、場合によっては機密情報を見られてしまいます。

 
特に、今はスマホを用いて誰でも長時間の録画が可能です。

 
PCの画面を録画されてしまう可能性もあります。

 
PCののぞき見は、のぞき見が起きる環境でオンライン業務を行わないことでしか、対策を取ることができません。

 

 

3 オンライン会議の盗み聞き
PCののぞき見と同様に、他の人に聞かれる環境でオンライン会議をしてしまうと、会話の内容を知られることがあります。

 
特に、イヤホンをセットしてオンライン会議をしてしまうと、自覚なく大きな声で話してしまうことが多いです。

 
その結果、少し離れている場所にいても、会話の内容が聞こえてしまうことがあります。

【情報セキュリティ】3 セミナー受講1

令和3年8月になりました。

 

今年も35℃を超えるような日もあり、健康管理上、熱中症対策が大切です。

 

さて、先日弁護士ドットコム様開催の弁護士向けセキュリティセミナーを受講しました。

 

セミナー講師は、前職時代にセキュリティ診断を依頼したこともある、LAC様でした。

 

小職がセキュリティの現場に関わっていたのは10年近く前なので、最新の動向を学ぶうえで、大変参考になりました。

 

以下、今回と次回に渡り、学んだことを、私見を交えて紹介します。

 

 

1 アンチウィルスソフトだけではダメ
サイバーセキュリティ対策の手法として、最も基礎的かつポピュラーなものの一つは、(ネットワークにつながっている)PCにアンチウィルスソフトを導入することです。

 
もちろん、これは必ず行わなければならないと言っても過言ではないセキュリティ対策です。

 
しかし、アンチウィルスソフトは、セキュリティ事故発生の確率を下げることができるにすぎません。

 
アンチウィルスソフトには、2つの弱点があります。

 
1つは、真新しいマルウェアに対しては無防備であるという点です。

 
マルウェア検出方法のうち、最もポピュラーなものは、パターンマッチング法です。

 
これは、プログラムの文字配列を見て、マルウェアであるか否かを判断する手法です。

 
この手法は、前提として、アンチウィルスソフト側で、マルウェアプログラムの文字配列データを保持している必要があります。

 
そのため、文字配列データがない最新のマルウェアを検出することができません。

 
この現象は、ゼロデイ・エクスプロイトなどと呼ばれます。

 
もう1つは、平時行われる動作を用いた攻撃を防げないという点です。

 
具体的には、マルウェアを仕込んだ不正なウェブサイトへのアクセスを防げないという点です。

 
インターネットの閲覧は、通常の業務でも行うため、アンチウィルスソフトからすると、見分けがつきません。

 
このような攻撃に対しては、インターネットゲートウェイにおける出口対策をする必要があります。

 
もっとも、出口対策も、ゼロデイ・エクスプロイトに対しては対抗できません。

 

 

2 サイバー攻撃の多くは金銭を目的としたもの
最近よく聞くマルウェアの一つに、ランサムウェアと呼ばれるものがあります。

 
これは、感染したPC内のファイルを暗号化し、暗号化解除と引き換えに金銭を要求するというマルウェアの一種です。

 
重要なデータが暗号化されてしまうと、業務の進行や取引などの重大な支障が生じることから、身代金支払に応じてしまうケースもあります。

 
サイバー攻撃というと、一般的なイメージとしては、一部のマニアが愉快犯的にマルウェアを作り出してばら撒いたり、特定の思想信条を有する人が国や大資本組織を攻撃するというものがあるかと思います。

 
もちろん、このようなケースもありますが、大半は金銭目的によるものです。

 
もっとも、金銭目的による攻撃者は、闇サイトから攻撃ツールや脆弱性情報を取得して、攻撃を行います。

 
その大元の攻撃ツール、脆弱性情報を提供している人は、愉快犯なのかもしれません。

【情報セキュリティ】2 原始的な対応が一番大切

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

本格的に暑くなる時期が迫って参りました。

 

体調管理には気を付けたいところです。

 

今回は、前回に引き続き、情報セキュリティのお話です。

 

 

1 システム分野における情報漏洩のイメージ
情報を外部から盗み出すというと、どのようなイメージを持たれますでしょうか。

 

高度な技術を持ちながらも、これを悪用する人が、日夜黒い画面(CUI)に複雑なコマンドを入力し続け、企業等のシステムに侵入して情報を抜き出す、という場面を想像するかもしれません。

 

あるいは、何万行ものプログラムで構成されたコンピューターウィルス(マルウェア)を作成し、ネットワークに載せて流すことで、コンピューターウィルスに感染したシステムから情報を流させるというイメージもあるかもしれません。

 

もちろん、これは間違いではないです。

 

実際、このような形でデータが流出することもあります。

 

(企業のウェブシステムのアウトサイドファイアウォールのログなどを見ると、毎秒のようにポート番号をスキャンされていたりします)

 

このような攻撃に対する対応はもちろん大切ですが、これはシステム技術者に任せるしかありません。

 

情報漏洩対策は、上記のような高度な技術を持った攻撃に対するものだけでは足りません。

 

むしろ、もっと身近な場所で、原始的な手法によって発生する情報漏洩の方が多く、これに対する対応の方が重要です。

 

そしてこれは、システム技術者はもちろんですが、事業に携わる方全てが行わなければなりません。

 

 

2 原始的な原因による情報漏洩
先に例を列挙すれば、パスワードの盗み見・盗み聞き、書類の持ち出し・スマホでの撮影、メール・FAXの誤送信、USBメモリによるデータの抜き出しなどが挙げられます。

 

これらは、いずれも特殊な技術は要りません。

 

システム技術者でなくても、誰でもできてしまう(起こってしまう)ことです。

 

私の知っている事務所では、辞めた従業員が夜中に顧客ファイルをごっそり運び出し、そのまま連絡が取れなくなったいうこともありました。

 

従業員の出入りの管理や、鍵の回収等、システムとは全く無関係な、原始的な対策をしっかり行わないと、このような形で情報セキュリティが保てなくなります。

 

情報漏洩の多くは、内部の者(内部に出入りする者含む)による、意図的な持ち出しか、または過失による流出です。

 

意図的な持ち出しは論外ですが、過失による情報漏洩は、起こしてしまった当の本人も、深刻な精神的ダメージ(場合によっては損害賠償責任)を負います。

 

そのため、仕組みでもって、原始的なセキュリティ事故が起こらないようにすることが大切です。

【情報セキュリティ】1 情報セキュリティスペシャリスト

令和3年7月になりました。

 

これから暑い日も増えてくると予想されます。

 

熱中症には気を付け、しっかりエアコンを入れ、水分補給を行うことが大切です。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は、情報セキュリティについてのお話です。

 

 

1 顧客情報
私は、弁護士になる前、航空会社の情報システム部門に勤務していたことがあります。

 

航空会社は、膨大な数の搭乗者の方の情報を扱います。

 

また、マイレージ関連のサービスにおいては、ご住所やご家族の情報など、非常にセンシティブな情報を扱わなければなりません。

 

航空サービスは、政治家や著名人の方なども使用します。

 

そのため、顧客情報は極めて厳重に取り扱わなければなりません。

 

もちろん、航空業界に限らず、お客様の重要な情報を扱うお仕事であれば、顧客情報の管理は重要な課題となります。

 

弁護士の業務も、お客様の財産に関する情報や、身分関係の情報など、非常にセンシティブなものを扱いますので、細心の注意が必要となります。

 

 

2 情報セキュリティスペシャリスト
そこで当時の私は、仕事の一環として情報セキュリティを体系的に学ぶため、情報セキュリティスペシャリスト(現在は廃止され、後継資格として情報処理安全確保支援士)という資格試験の勉強をしていました。

 

情報セキュリティスペシャリストは、情報処理の促進に関する法律に基づき、経済産業省の管轄で、独立行政法人情報処理推進機構が実施する、国家認定資格のうち、専門性、複雑性、責任性、規模が大きい高度情報処理技術者試験の一つとして位置づけられていました。

 

1回不合格となったものの、高度情報処理技術者試験としては珍しく春と秋の年2回試験が実施されていたので、1年以内に2回目の受験で合格することができました。

 

出題範囲は幅広く、暗号化やサイバー攻撃手法の意義を問うものから、プログラミングの脆弱性、ネットワーク(ファイアウォール含む)の構築・設定ポリシー、人的対策など、様々な問題が出題されました。

 

 

3 セキュリティのリテラシーはシステム関係者以外にとっても重要
システムに関する分野は非常に多岐にわたります。

 

多くは、システム関係者側にとって必要な知識です。

 

もっとも、セキュリティ関しては、システム関係者だけでなく、システムを利用する側も十分に知っておくべきものであると考えております。

 

さらにいえば、情報漏洩は、システムに起因するとは限りません。

 

極端な話、事業所の鍵を閉め忘れた隙に、顧客ファイルを持ち去られるということもあります。

 

このような事象に対する対策も含め、セキュリティリテラシーは、事業に関わる方すべてにおいて、高度なものが求められると考えております。

 

【相続放棄シリーズ】27 債権者側の対応2

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ27回目となる今回も、債権者サイドについてのお話をします。

 

今回は、特に問題となりがちな、被相続人が賃貸住宅に住まわれていた場合の、賃貸人の対応です。

 

1 相続放棄と賃貸物件
相続人が相続放棄をする場合、被相続人の賃貸物件との関係では、大きく分けて2つの問題があります。

 

1つは、賃貸物件の賃貸借契約の問題です。

 
賃貸借契約によって発生する被相続人の賃借権は、相続財産となります。

 
一般論として、賃借権は価値の高い財産であることから、相続人が賃貸借契約を合意解除してしまうと、相続財産の処分に該当してしまう可能性が残ります。

 
その結果、相続放棄ができなくなる可能性があります。

 

もう1つは、被相続人の残置物です。

 
被相続人の残置物も、相続放棄をする場合、原則として一切処分することができません。

 
実務上、売却できない(換価価値がない)ものについては、相続財産を形成しない(いわゆるゴミの扱い)ものとして、処分しても問題ないとすることもあります。

 
しかし、相続財産の処分として見られる可能性も残ります。

 

2 賃貸人側の立場
上記の問題は、相続放棄をしようとしている相続人以上に、賃貸人側として非常に深刻なものだと考えられます。

 

賃貸借契約が解除できず、かつ残置物を除去することもできない状態では、新たな賃貸人に家屋を貸すことができません。

 

そのため、賃料を得ることができない状態が、長期間にわたって生じるリスクがあります。

 

法的に解決するとすれば、すべての相続人が相続放棄をするのを待ち、裁判所へ相続財産管理人選任の申立てをしたうえで、賃貸借契約の解除と残置物の処分をすることになります。

 
(もし被相続人に財産があれば、未回収の賃料等を回収できる可能性もあります)

 

もっとも、相続人全員が相続放棄をするのを待つだけでも相当な時間がかかります。

 

大まかに見ても、兄弟姉妹(場合によってはその代襲相続人)まで相続放棄を終えるには、6か月以上かかる可能性があります。

 

さらに、その後に相続財産管理人選任申立てをし、相続財産管理人の選任を待って財産の処分が完了するまでも、相当の期間を要します。

 

その間、家屋を貸し出すことができませんので、機会損失は相当なものとなります。

 

3 私見
相続放棄と、被相続人の賃貸借契約との間の問題については、現行法での解決には限界があると感じています。

 

被相続人の残置物については、財産的価値がないことを証明できるようにしたうえで処分することもありますが、現行法上、相続人側がリスクを負うことになります。

 

賃貸借契約を消滅させるためには、相続人と賃貸人との間で合意解除をすることはできないため、賃貸人側から賃料未払い等を理由とした法定解除をしてもらう必要があります。

 

そもそも、賃借人が亡くなり、その相続人が相続放棄をするリスク自体が、あまり認識されていないという現状もあるかと思います。

これは私の思い付きでしかありませんが、一つの方法として、賃貸人は賃貸用不動産を取得する際、不動産会社が賃借人の死亡とその相続人が相続放棄をし得る旨を説明し、かつ、そのような場合に備えた保険商品などができてくれればよいのではないかと考えております。

【相続放棄シリーズ】26 債権者側の対応1

令和3年6月になりました。

 

梅雨の時期なので、天候の変化はもちろん、食中毒等にも気を付けたいところです。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ26回目です。

 

今回は、相続放棄がなされた際の、債権者側の対応のうち、金銭債権を有している貸金業者や金融機関側の対応を考えてみます。

 

1 相続放棄の効力

まず、原則の確認です。

 

相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになります。

 

この効力は非常に強力です。

 

元相続人は、被相続人の財産・負債に関しては、(管理責任を除き)完全に無関係の存在になります。

 

被相続人にほぼ財産がなく、負債のみがあった場合は、元相続人には管理責任もありません。

 

本来的には、相続人は、被相続人の金銭債務のうち、法定相続割合に該当する部分を負担します。

 

そのため、債権者は、相続人に対し、法定相続割合の限度で、被相続人の債務の弁済を求めることができます。

 

しかし、相続人が相続放棄をした場合、法的に被相続人の債務を負わなくなくなりますので、請求は不可能となります。

 

2 法定単純承認事由

相続放棄は、法定単純承認事由に該当する行為がなされていた場合、効力を失います(正確には、単純承認になります)。

 

債権者としては、債務者である被相続人の相続人が相続放棄をしたとしても、法定単純承認事由が存在することを主張し、相続放棄の効力を覆して、金銭の支払を請求できる途はあります。

 

もっとも、実務上、これを行うのは容易ではないことが多く、実際このような請求がされるケースは非常に少ないです。

 

相続放棄をした元相続人が、任意の支払に応じることはほぼないため、もし支払いを請求するのであれば、訴訟等によるのが通常です。

 

債権者側は、金銭消費貸借契約の存在や、相続の発生を請求の原因として、元相続人に請求します。

 

これに対し、元相続人は、相続放棄をしていることを理由に、支払う義務はない旨の反論をします。

 

そして、債権者側が再反論として、法定単純承認事由の存在を主張することになると考えられますが、この時、法定単純承認事由の存在を、証拠を以て証明しなければなりません。

 

被相続人の不動産を相続し、名義変更も行ったうえで売却したなど、客観的記録である不動産登記情報を以て証明可能であるような場合を除き、法定単純承認事由の存在を証明することは、一般的には非常に困難です。

 

3 実際の金銭債権者の対応

相続放棄をした元相続人に対し、被相続人の金銭債務の履行を求めることは容易ではありません。

 

債権額が大きく、かつ法定単純承認事由の存在を容易に証明できそうな場合を除き、相続放棄をした元相続人に対して支払いを求めることは、労力・費用対効果の面において合理的でないことが多いです。

 

そのため、多くの場合、相続人が相続放棄をすることを伝えた段階で請求を一時停止し、相続人が相続放棄をしたことを知った段階で回収不能として処理します。

 

貸金業者や金融機関としては、相続人が遠縁である場合などは、回収不能として処理をするために、相続放棄申述受理通知書の写しが必要という場合もありますので、相続放棄が完了したら、相続放棄申述受理通知書の写しを早急に提供します。

【受験シリーズ】11 純粋未修者

令和3年も5月になりました。

 

暖かくなってきたので、コロナウィルス感染も減っていくことを祈ります。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は、受験シリーズ第11回目です。

 

1 純粋未修者
ロースクールにおける造語(スラング)の一つに、純粋未修者という言葉があります。

これは、ロースクールの未修者コース(3年間)に入学し、法学部出身ではない人のことを指します。

前提として、ロースクールには大きく2つのコースがあります。

1つは、法律を勉強したことがない人(未修者)向けのコースです。

3年間のカリキュラムで修了となります。

もう1つは、法学部などで法律を勉強した人(既修者)向けのコースです。

2年間のカリキュラムで修了となり、入学試験に合格しないと入れません。

本来的には、未修者向けコースは、法学部出身者ではない人を想定したコースです。

しかし、現実には、法学者出身の人がたくさんいます。

少なくとも、私が入学したときはそうでした。

そのため、未修者向けコースの中でも、法学部出身者でない人のことを、法学部出身者と分ける趣旨で、「純粋」未修者と呼ぶことがあります。

私は理工学部出身で、法律とは関係のない仕事をしたのちにロースクールへ入学しましたので、純粋未修者でした。

 

2 純粋未修者には厳しい現実
純粋未修者は、法律に関するバックグラウンドが全くありません。

既修者や、法学部出身の未修者と比べ、スタートラインで大きく出遅れる形となります。

法律の知識だけでなく、答案作成経験や、点取りテクニックなど、あらゆる面で差があります。

ロースクールは基本的に相対評価であり、ロースクールによっては相対的成績下位者を留年させることもありますので、純粋未修者は進級すら危ぶまれることになります。

3年で無事修了できる純粋未修者は、入学時の半分以下になることもあります。

 

3 それでも合格できる
私は純粋未修者ですが、何とか1回で司法試験に合格することができました。

純粋未修者であるだけでなく、受験時には30代後半であり、体力も思考力も、大半の受験生よりも劣っていました。

もともとの学力がずば抜けて高いわけでもありません。

本来、司法制度改革は、法律以外の分野出身の人材を法曹界に増やそうという狙いがありました。

純粋未修者が司法試験に合格できないどころか、受験に至ることすらできない現実を、私は変えたいと思っています。

【受験シリーズ】10 趣旨と規範

令和3年も5月に入りました。

 

昨年の5月は、初の緊急事態宣言が出され、外出者が非常に少ないという、異例の光景が見られました。

 

今年も、再度コロナウィルスの影響が強まっていますので、日ごろから気を付けたいものです。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は受験シリーズの10回目です。

 

1 納得と記憶
司法試験においては、考え方や理解が非常に大切といわれます。

もちろん、それはその通りです。

一方で、やはり覚えなければどうにもならないものもあります。

規範は、その最たるものの一つであると考えられます。

問題は、覚え方にあると考えられます。

判例規範や、論証パターンを、文字列として暗記をするのは、目の前の点数を取得しなければならない状況下においては、応急処置としては良いかもしれません。

しかし、応用が利きませんし、記憶が長続きしません。

人間の記憶は、納得が得られたとき、長期記憶として残るといわれています。

納得と理解は、この場面においてはほぼ同義です。

では、同じことを覚えるとしても、納得を得て覚えるためにはどうすればよいのでしょうか。

 

2 趣旨と規範
条文や条文上の単語の解釈について、納得を得るためには、趣旨を読むことです。

ある条文が、何のために生み出されたのかを知ることで、単語の解釈の仕方にも納得がいきます。

納得さえすれば、忘れにくくなるので、試験本番でも自然に引き出すことができるようになります。

そして、趣旨は、規範ともつながってきます。

規範は、趣旨からさかのぼって生み出されることが多いためです。

条文の趣旨を知っていれば、(一字一句正確にではないにせよ)規範を思い出すことがしやすくなります。

意味も分からず、無理矢理文字列として覚えた規範を捻りだすのとは、根本的に違います。

時には、判例のパターンから、少しずらした事案が出題されることもあります。

このような場合こそ、趣旨からさかのぼって、判例規範に応用を加えるということもできるようになります。

【相続放棄シリーズ】25 付随問題への対応2

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ25回目の今回は、前回に引き続き、相続放棄に付随する問題への対処法を説明していきます。

 

1 被相続人の負債
結論としては、支払う必要はありません。

相続放棄が成立した後は、はじめから相続人ではなかったことになります。

被相続人の負債を相続しませんので、支払いに応じる法的根拠がなくなります。

実務上の対処法としては、まず相続放棄をすることを決めた段階で、債権者へ連絡します。

債権者側へ伝えることで、いったん請求を停めてもらえるためです。

相続放棄が完了し、相続放棄申述受理通知書が発行されたら、その写しを債権者へ提供します。

 

2 残置物
法律上は、何もする必要がありません。

原則論でいえば、相続人全員が相続放棄をした後、賃貸人が相続財産管理人選任の申立てをし、相続財産管理人に明渡を求めればよいためです。

もっとも、賃貸人からの明渡要求が厳しく、精神的に辛いというケースもあります。

また、後述するように、被相続人の保証人になっている場合は、明渡完了までの間の家賃(相当額)を支払わなければならなくなります。

相続財産管理人選任を待っていると、保証人として支払う金額が大きくなる恐れがあります。

実務上は、明らかに財産的価値のない残置物は、いわゆるゴミとして扱い、相続財産を形成しないと解釈し、処分して明渡すこともされています。

ただし、裁判所が明確に認めたわけではないので、法定単純承認事由となるリスクが残ることは認識が必要です。

財布(現金)や預金通帳など、財産的価値があるものは、しっかり保管しておきます。

 

3 不動産(建物)、自動車
現行法上、これらを処分すると、原則として、法定単純承認事由に該当することになります。

土地建物を売却することはもとより、建物を取り壊すことも法定単純承認事由に該当します。

自動車の廃車手続、廃棄も同様です。

これらを、法定単純承認事由に該当することなく処分するには、相続財産管理人選任の申立てが必要になります。

被相続人に債権者がいて、かつ売却価値のある不動産、自動車であれば、債権者側が相続財産管理人選任の申立てをする可能性もあります。

 

4 被相続人の保証人になっている
結論としては、相続放棄をしても保証債務を免れることはできないため、支払いに応じる必要があります。

保証の範囲は、保証契約によって変わる可能性があるため、保証契約の中身をしっかり確認します。

特に住宅の賃貸借の場合、原則として、保証人には明渡義務そのものはなく、原状回復義務および明渡遅延期間の賃料相当額の支払義務があります。

明渡ができないため、法律論的には、相続財産管理人選任の申立てをし、賃貸物件内の残置物処分と、賃貸借契約の解除をする必要があります。

もっとも、非常に時間も費用も要することから、実務上は、残置物を別の場所に保管するか、リスクを負って財産的価値がないものを処分するという方法がとられることも多いです。

また、保証人になっている場合に気を付けたいのは、被相続人が賃貸物件で死亡した場合です。

いわゆる事故物件になったとして、保証人に対し、損害賠償を求められることがあります。

被相続人が自殺をしたのか、病気や事故で亡くなったのかによっても、損害賠償義務の有無や額が変わってきます。

自殺の場合には、損害賠償義務を認めた裁判例もあります。

そのため、死因についてはしっかりと資料、証拠を集めたうえ、厳格な交渉を行います。

【相続放棄シリーズ】24 付随問題への対応1

令和3年4月になりました。

 

暖かい日も増え、日によっては暑いくらいかもしれません。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ24回目です。

 

今回と次回は、私が今まで相続放棄業務を行ってきた中で、相続放棄に付随して発生する問題や、これに対する対応法について記していきます。

 

1 相続放棄は手続そのものより付随問題対応が難しい
相続放棄の手続き自体は、例外的なケースを除き、相続放棄申述書を作成し、戸籍謄本等の添付資料と一緒に家庭裁判所へ提出することでできます。

これだけであれば、そこまで大変な手続きではありません。(子が亡くなった場合の親の相続放棄や、兄弟姉妹の相続放棄は、集める戸籍謄本類が多いため、専門家でない方が行うのは簡単ではありません)

しかし、相続放棄を希望される方は、被相続人に関する何らかの付随問題を抱えていることが多いです。

単に相続放棄申述書を裁判所に提出しただけでは解決しないことがあります。

そして、あくまでも私見ですが、専門家としても、相続放棄の手続きをするだけではなく、依頼者の方が抱えている諸問題も一緒に解決するべきであると思います。

では、相続放棄に付随する問題としてどのようなものがあるのでしょうか。

 

2 相続放棄に付随する問題

(1) 被相続人の負債
被相続人が貸金業者等からお金を借りていた、家賃を滞納していた、入院費を滞納していた、等があります。

原則としては、相続人が債務を相続しますので、相続人へ支払い請求がされることになります。

 

(2) 残置物
被相続人が賃貸物件に住んでいた場合、生前に使用していた衣類や家財道具等が残ります。

賃借権や明け渡しの義務も相続の対象となりますので、賃貸人は相続人に対して明け渡し等を求めることになります。

 

(3) 不動産(建物)、自動車
相続人全員が相続放棄をすると、不動産や建物は相続人不在となります。

もっとも、不動産や自動車は、物理的には残存し続け、元相続人は管理責任を負うことになります。

建物がある場合、倒壊等の危険があり、何らかの責任を問われる可能性が残ります(管理責任の内容は、明確には確立していません)。

自動車についても、他人の土地上にある場合、撤去を求めてくることがあります。

 

(4) 被相続人の保証人になっている
相続人が、被相続人の保証人になっている場合があります。

被相続人の借金の保証人になっている場合もあれば、被相続人が自宅の賃貸借契約をする際の保証人になっている場合もあります。

保証人になっている場合、保証契約はあくまでも債権者と相続人との間で締結されるものであるため、相続放棄をしても保証債務から免れることができません。

 

次回、これらについての対処法について説明します。

【受験シリーズ】9 厳選と繰り返し

令和3年も3月になりました。

 

年度末なので、とても忙しい方もいらっしゃるかと思います。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

受験シリーズの9回目です。

 

今回は、ロースクール等で、一通り全分野の講義が終了した後の、司法試験に向けた勉強法についてです。

 

1 司法試験の性質
司法試験は、筆記試験です。

 

筆記試験は、極論すれば、本番の場において、答案用紙に、採点者が〇をつける文字の列を書くことができれば受かります。

 

観点を変えると、いくら法律論を理解していても、いくら規範や定義を知っていても、本番において、答案用紙に書くべきことを書くことができなければ合格することはできません。

 

また、司法試験は時間が非常に限定されています。

 

必須科目は、1科目あたり2時間です。

 

2時間以内に事案を読んで理解し、答案構成をして、答案を書く必要があります。

 

通常、答案用紙5~8枚程度書くことが求められます。

 

つまり、正確さと速さの両方がなければ点数を取ることができません。

 

2 厳選と繰り返し
速く正確なアウトプットをするためには、身体に覚えさせるほかありません。

 

規範やフレーズを無意識有能化させる必要があります。

 

そのためには、何度も繰り返し書いたり読んだりする必要があります。

 

他方、司法試験本番までに勉強に費やすことができる時間は限られています。

 

そこで、何を繰り返し練習するか、厳選しなければなりません。

 

3 繰り返し練習の対象
最優先で練習するべき対象は、言葉の定義と、判例規範です。

 

これを出すべき場面で、速く正確に書くことができるかどうかで、点数は大幅に違ってきます。

 

たとえば、民事訴訟法は、言葉の定義を基本書や受験予備校の教材から抜き出して、ひたすら何度も読み書きします。

 

刑法や刑事訴訟法であれば、判例百選に掲載されている判例の規範を何度もノートに書き写したり、隙間時間で繰り返し読むことで、自然にアウトプットができるようになります。

【受験シリーズ】8 成功者のマネ

令和3年3月になりました。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は受験シリーズの8回目です。

 

司法試験の勉強をするにあたって、私が実践していた考え方と勉強法について紹介いたします。

 

1 成功者のマネをすることが基本
司法試験に限らず、ビジネスの世界でも重要視されている鉄則として、「成功者のマネ」をするという考えがあります。

 

まずは、外観からわかる形のマネから入ります。

 

形をしっかりマネをすることを続けているうちに、その背景にある考え方を理解することができ、自分の能力も上がっていくという流れになります。

 

2 司法試験の勉強においての「マネ」
では、司法試験の勉強においては、実際には何をすればよいのでしょうか。

 

まず、司法試験における成功者とは、超上位合格者です。

 

具体的には、各分野において、一桁の順位の得点をとった人です。

 

超上位合格者の再現答案は、受験予備校が出版している過去問集に掲載されています。

 

私は、一通り司法試験の範囲の講義が終了した時点から、これら超上位合格者の再現答案をひたすら写経していた時期がありました。

 

朝から晩まで10時間くらい書き続けていました。

 

一見バカなやり方に見えるかもしれません。

 

私も初めは辛いだけでした。

 

ところが、1週間くらい続けると、超上位合格者の考え方が理解できてきます。

 

なぜ今回の事案においてこのような問題提起をするのか、なぜこのタイミングでこの規範を出すのか、なぜこの事実を指摘するのか、なぜこの順序で論証するのか、ということを身体で覚えることができるのです。

 

その結果、一回で合格することができました。

 

3 写経はほかの場面でも使える
私は民事訴訟法が非常に苦手でした。

 

民事訴訟法は、用語の定義を理解することが非常に重要な科目です。

 

そこで、基本書や、受験予備校の教材から、用語の定義をひたすら抜き出してノートに書き続けることをしました。

 

これを行うことで、模試や本番でも、定義をスラスラと書くことができるようになり、A評価で合格することができました。

【相続放棄シリーズ】23 公営住宅

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

令和3年2月です。

 

コロナウイルスも相変わらず猛威を振るっております。

 

緊急事態宣言により、収束することを心から願っております。

 

今回は、被相続人が公営住宅に住んでいた場合の扱いについてです。

 

1 通常の賃貸借契約

被相続人が民間のアパートやマンション等を借りて住んでいた場合、被相続人には賃借権があります。

 

賃借権は、借りている不動産を使用収益する権利であり、非常に強力で価値のある権利です。

 

そのため、相続人が被相続人の賃貸借契約を合意解除することは、法定単純承認事由に該当する可能性が残ります。

 

(賃料の滞納を理由に、賃貸人から一方的な意思表示で行える法定解除をしてもらうという手はあります。)

 

2 公営住宅

民間のアパートやマンションに対し、公営の住宅の場合、居住する権利の性質が異なります。

 

公営住宅は誰でも居住できるわけではなく、一定の要件(収入等)を満たさなければ居住できません。

 

つまり、居住する人の個別の属性に応じて付与される権利であり、一身専属権のような性質があります。

 

そのため、公営住宅に居住する権利は、相続の対象にはなりません。

 

このように判断した裁判例もあります。

 

3 同居親族がいる場合

公営住宅において、被相続人と同居していた親族がいる場合、一定の要件のもとで継続使用ができることがあります。

 

この場合、公営住宅に居住する権利は、あくまでも同居親族固有の権利と考えられるため、相続によって居住権を得たことにはならないと考えられます。

【相続放棄シリーズ】22 相続財産管理人

2月になりました。

 

一年のうちで一番寒い時期であると同時に、三寒四温ともいわれ、寒暖差が激しいので健康管理には気を付けましょう。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は、相続人全員が相続放棄をし、相続人不在となった場合についてです。

 

1 相続人全員が相続放棄をした場合

相続放棄には順位があります。

 

単純化すれば、子→直系尊属(両親、祖父母等)→兄弟姉妹の順となります。

 

子や兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっていた場合、その代襲相続人に相続されます。

 

先順位相続人が相続放棄をし、順に後順位相続人も相続放棄をすると、最終的には相続人が不在になります。

 

このようになると、被相続人の財産は、相続人不在となります。

 

2 管理責任

相続人全員が相続放棄をしたとしても、元の相続人には、被相続人の財産に関する管理責任が残ります。

 

この管理責任の内容は、明確にはなっていないのですが、少なくとも相続財産管理人へ引き渡すまで、棄損、滅失をしないようにする責任があると考えられます。

 

被相続人の財産が、預貯金のみであったり、少額の現金など小さな動産のみである場合はほどんと問題ありません。

 

問題となるのは、被相続人の財産に不動産や自動車が含まれる場合です。

 

特に建物が存在している場合、老朽化によって隣接地等に被害が生じる可能性があります。

 

法的に損害賠償責任を負うか否かとは別に、何かしらの連絡が入り、トラブルにはなる可能性があります。

 

そのため、保存行為として、補修等を行っていかなければならなくなります。

 

未来永劫補修を行うことは、とても大きな負担になります。

 

他方、建物の取り壊しは法定単純承認事由になるため、行うことができません。

 

そこで、相続財産管理人選任の申立てを行うという選択肢が出てきます。

 

3 相続財産管理人

相続財産管理人は、相続人が不在となった相続財産を管理する役割の人です。

 

利害関係人が裁判所へ申し立てることで、選任されます。

 

行うことは、大まかに、相続財産の調査、債権者の調査、相続財産の換価、債権者への配当です。

 

処分することができなかった相続財産は、国庫に帰属されます。

【相続放棄シリーズ】21 判明していない相続債務

令和3年1月になりました。

 

つい最近元号が変わったという感覚でしたが,もう3年目にもなるのですね。

 

今回は相続放棄シリーズ21回目,被相続人の相続債務についてです。

 

1 相続債務

相続放棄の大きな効果の一つに,被相続人の債務を免れることができるというものがあります。

 

自己破産と異なり,租税に関する債務も免れることができます。

 

被相続人に債務があるか否かについては,遺品の中に債権者からの請求書があったり,被相続人死亡後に債権者からの通知書が送られてきたりすることで判明します。

 

もっとも,問題は,すべての債務を網羅的に把握することが簡単ではないという点です。

 

債権者からの請求書が発見されたりすると,他にも債務が存在するのではないかという疑いが生じます。

 

相続人の立場で,CICやJICCから被相続人の信用情報を取得することで,どの貸金業者から,どの程度の金銭の借入をしているかを把握することはできます。

 

もっとも,債権譲渡がなされていたり,個人からの借入があったりする場合は,信用情報によっても調査しきることができないこともあります。

 

2 真の動機は「どんな債務が潜んでいるかわからない」こと

相続放棄の動機は,「債務超過」すなわち被相続人の保有資産よりも,負債の方が多いため,負債から免れたいというものが非常に多いです。

 

もっとも,上記の通り,負債の全貌が明らかになっていることは稀です。

 

むしろ,債務者本人が死亡してしまっている以上,どこにどれだけの債務を有していたかを100%調査しきることは,理論的にも困難です。

 

そこで,相続人でなくなることで包括的に相続債務を免れる,という相続放棄が功を奏します。

 

相続放棄をしてしまえば,将来突然判明していなかった債務の弁済を迫られたとしても,対応できるためです。

 

相続債務をすることで,いつ誰から債務の弁済を求められるかわからない,という恐怖から解放されます。

 

3 実際に,相続放棄をしてからしばらく経って債権者から支払請求されることもある

相続放棄の手続をした時点で判明していた相続債務の債権者に対しては,相続放棄申述受理証明書を提示するなどにより,請求をストップしてもらいます。

 

ところが,相続放棄を終えてからしばらくして,債権者を名乗る者から相続人に対する請求がなされることがあります。

 

これは,相続放棄をしたことは公開されないため,債権者側は相続人が相続放棄をしていることを認識できないことに起因します(正確には,裁判所に対して相続放棄の申述の有無を照会することはできますが,債権者にはそこまで調査するメリットがありません)。

 

そのような場合も,やる事は同じです。

 

まず債権者に連絡を取り,相続放棄をしたことを伝えます。

 

そのうえで,相続放棄申述書を提示することで,通常は解決します。

 

もっとも,法律の専門家でない本人が,債権取立のプロに連絡を取り,お話をすることはとても怖いかもしれません。

 

もしかすると,答え方によっては,支払い義務を発生させられるかもしれないという心理が働くためです。

 

そのような場合,相続放棄を担当した弁護士を通じて,債権者との話を付けてもらうことが有効です。

【相続放棄シリーズ】20 質問状のあれこれ

新年が明け,1月になりました。

 

思えば,コロナウィルスは昨年の1月くらいに話題に上り始め,それからいろいろな面で生活が変わりました。

 

相続放棄シリーズ第20回目の今回は,裁判所から送付されてくる質問状についてです。

 

1 相続放棄申述後の流れ

法律上の相続放棄を行う際には,相続放棄申述書という書類を作成し,戸籍謄本類などの必要書類を添付して,期限内に管轄の裁判所に提出します。

 

なお,申述書を提出して,裁判所で事件番号が付与されれば,原則として期限の問題はなくなります。

 

裁判所によって受付がなされた後,裁判所によって,質問状が送付されます。

 

質問状は,「照会書」や「照会書兼回答書」などの名称が付けられることが多いです。

 

質問状は,送付の仕方や,質問の内容などが裁判所によって区々です。

 

2 送付の仕方

本人が相続放棄の申述を行っている場合,通常は申述書に記載した住所地へ質問状が送られてきます。

 

本人が裁判所へ直接申述書を持ち込む場合,受付の場所で質問状を記入するよう指示されることもあります。

 

裁判所で記入した場合は,特に不備等がなければ,後で質問状が送られることはないです。

 

代理人弁護士が本人の代理として申述を行っている場合は,さらにバリエーションが増えます。

 

代理人弁護士宛ての質問状が代理人事務所に送付される場合,本人宛の質問状が本人の住所地に送付される場合のほか,本人宛の質問状(本人が記入する必要がある)が代理人弁護士の事務所に送付されることもあります。

 

代理人宛ての質問状の場合,郵送の場合もあれば,FAXの場合もあります。

 

また,裁判所によっては,電話照会ということもあります。

 

3 質問状の内容

裁判所が質問状を送付する趣旨は,本人の真意で申述していることの確認,および法定単純承認事由に該当する行為の有無の確認にあると考えられます。

 

質問の内容は,この2点にフォーカスしたものが中心となります。

 

質問の数は,3~5問程度の場合もあれば,10問以上に及ぶ場合もあります。

 

裁判所によって運用が異なることに加え,相続人死亡から3か月以上経過している場合など,イレギュラーな事情があると質問が増えたり,複雑化する傾向があります。

 

代理人弁護士宛てに質問状が発行される場合,経験上は,かなり質問がシンプルです。

 

弁護士が介入していることから,ある程度の信用性が担保されているという前提があるためだと考えられます。

 

なお,弁護士が代理人に就いている場合に限り,質問状を送付しない(つまり質問なし)裁判所もあります。

【受験シリーズ】7 勉強方法は本当に人によりけり

今年も終わりに近づきました。

 

今年は年が始まってすぐにコロナウィルスが流行り,対応に追われる事態に陥った方も多かったかと思います。

 

来年のことを完全に予想することは誰にもできませんが,今年のようなことがないことを祈ります。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

受験シリーズの7回目です。

 

今回は司法試験の勉強方法についてです。

 

突き詰めれば,勉強方法は全員がオリジナルになります。

 

もっとも,自分が正しいと思う勉強方法を考えるうえで,根拠となる合理的な考え方は持っておくべきです。

 

今回は,ゼミを組むか否か,書いて勉強するか読んで勉強するかという観点から,私の実例と考え方を紹介します。

 

1 他のロースクール生とゼミを組むか否か
これは,意見が分かれるところです。

一方で,司法試験に受かったわけでもない人たちで議論しても正解にたどり着かない(かえって混乱する)という考えもあれば,他方で,答案作成のペースメーカーとしては価値が大きいと考えることもできます。

また,複数のゼミを組む人もいれば,1つか2つという人もいます。

私は1つだけゼミを組んで,過去問の答案作成を中心に行っていました。

答案作成のペースメーカーとしてという側面が一番大きかったです。

また,私以外は成績上位者でしたので,間違ったことを議論するリスクを回避できました。
(上記のゼミは,全員1回で合格し,半数は2桁台の順位で合格しました)

ゼミを1つだけにしていたのは,単に複数ゼミを組むと体力がもたなかったからです。

補足しますと,ゼミを組む場合,他人と一緒に勉強を行う以上,続けられるか否かは,メンバーの能力よりも価値観や考え方が合うか否かも大きく影響します。

 

2 書いて勉強するか読んで勉強するか
感覚的には,とにかく答案を書け,という考えの方が多数派である印象があります。

私自身,書くことの方を重視していました。

最終的なアウトプットとなる答案は,書いて作るものだからです。
もっとも,書くにはある程度まとまった時間や設備(机やイスなど)が必要となります。

そのため,書く場面と,読む場面を分けていました。

ロースクールや家にいるときは書くことを中心とし,それ以外の場面では読むことを中心としていました。

そして,移動やスキマ時間に読めるようにするため,資料(判例集など)は常に携帯していました。

 

3 その他,私の場合
後日詳細を述べますが,私の当時の勉強に対する考えの根底には,成功している人のマネをするという考え方がありました。

司法試験という土俵で成功している人とは,超上位合格者(順位1桁から十数位合格レベル)です。

そこで,極端なやり方ではありますが,ロースクールの講義がすべて終了してから司法試験本番までの3か月間,超上位合格者の再現答案をひたすら写経していた時期がありました。

写経は究極のマネです。

人にもよるかもしれませんが,正しい形から入ることで,思考・理解が後から付いてきました。

特に民事訴訟法については,2月まではロースクールの定期試験で落第スレスレだったところ,直前模試でA判定,5月の本番でもA判定という結果が残せました。