予防法務と相続放棄 その2

弁護士法人心東京駅法律事務所にて,相続案件を中心に担当している鳥光と申します。

 

さて,前回に引き続き,相続放棄における生前対策のお話です。

 

前回,相続放棄には次の2つの特徴があるため,事前に抑えておかなければならない点がある旨を書きました。

 

 

1 申述期限が相続開始を知った日から3か月以内と,非常に短いこと

 

2 相続放棄が認められなくなる行為をしてはならないこと

 

 

今回は,2についてお話をいたします。

 

相続放棄は,法定単純承認に該当する行為をしてしまうと,認められなくなります。

 

法定単純承認に該当する行為とは,相続財産の処分です。

 

すなわち,被相続人の財産を売却したり,廃棄したり,自分の名義に換えることをしてしまうと,相続放棄ができなくなる可能性が発生してしまいます。

 

また,積極財産だけでなく,被相続人宛ての請求(負債)に応じて支払いをすることも法定単純承認に該当する行為になることがあります。

 

財産を処分した後でこのことを知っても,取り返しがつきません。

 

そのため,相続が発生する前に,このことをしっかり抑えておく必要があるのです。

 

しかしながら,一点難しい問題があります。

 

それは,相続財産の処分には,どのようなものが含まれるのか,という点です。

 

わかりやすい例としては,相続人が被相続人の預貯金を引き出して私利私欲のために費消したり,金品や不動産を売却してしまうことが挙げられます。

 

他方,被相続人の住居にある残置物の処分はどうでしょうか。

 

残置物は,たとえ再販価値がほとんどなくとも,被相続人の所有物であったものなので,相続財産の一部です。

 

生ごみや紙くずなどの明らかなゴミなら処分してよいのか,古い家電は処分しないでおくべきなのか,かなり悩ましいのが現実です。

 

特に被相続人が賃貸物件に住んでいた場合などは,賃貸人や管理会社との関係でも,早く処分して明渡したいと感じるのが人情です。

 

他にも,被相続人あての水道光熱費の請求なども,支払ってしまいたくなると思います。

 

しかし,踏みとどまっていただく必要があります。

 

このような場合,基本的には一切手を付けず,債権者から何らかの連絡が入った場合には相続放棄手続き中である旨を伝えていただくのが安全です。

 

そのうえで,賃貸人などの債権者に掛ける迷惑をどのように低減するかを検討します。

 

相続放棄は,手続き自体は複雑ではありません。

 

しかし,相続放棄を検討されている方が置かれている状況は,複雑かつ悩ましいケースが多いと感じます。

 

安心して相続放棄を行うために必要な事前対策はケースバイケースですので,相続放棄を検討しようと思い立った段階でご相談をいただくのがベストです。